B/Lには流通性が(船荷証券は裏書によって譲渡できる)があるので、様々な国の利害関係によって流通していきますが、それを発行する船社によって、あるいは航路によってB/L約款の内容が異なることで国際貿易の発展を阻害して、B/Lの流通性が低下するのなどの弊害が生じてきました。
そのために国際的に共通した約款が必要になり、1924年に「船荷証券に関するある規則のための国際条約」(International Convention for the Unification of Certain Rules Relating to Bill of Lading)が発効されました。
この条約はオランダのヘーグで条文案がまとめられたため、通称”ヘーグルール”と呼ばれています。
ヘーグルール
ヘーグルールは事故が発生し、それを処理していく過程で運送人(船会社)が負うべき最低限の義務と責任、および運送人が享受できる最大限の権利と免責を規定しています。
運送人の主な義務は
a.本船の湛航性(SEAWORTHINESS)のある状態に保つこと
b.適切な船員を配乗させて、本船の装備や貯蔵品の補給を行うこと
c.船倉、冷蔵室、その他運送品の輸送に使用するすべての場所を運送品の受け取り、輸送および、保管のために適した状態にすること
について、注意を払うこととしています。注意を怠ったことが原因で生じた運送品への損害や延着について、運送人は責任を負う。運送人は相応の注意を払ったこと、つまり過失がなかったことを証明しなければ、責任を免れないということになります。
運送人の責任原則は、運送人またはその使用人(船長、船員などに)故意または過失があったときのみに責任を負うという過失責任主義を採用しています。
*堪航性:船舶が通常の航海に耐えられるだけの堅固な船体、機関をもち十分な装備を備え、乗員を配乗させ、食料、水、燃料を積み込み、安全な貨物輸送が確保できる状態のこと
ただし、海上固有の危険や積み荷固有の欠陥から生じる事故、および火災によって被る積み荷への被害に対しては、船社に責任を負わない。その他の事故については、事故の原因となる過失を航海過失(例えば、貨物の積み込み、積み付け、保管、荷揚げなど作業中の船社の過失といった本船の堪航性および、運送人の不注意からなる過失)の二つに分け、航海過失によって生じた損害に対しては船社は免責となりますが、商業過失については船社が責任を負うとしていて、責任の限度額は運送品1梱包または1単位あたり100スターリングポンドに設定しています。
日本はヘーグルールを1957年に批准して、国際海上物品運送法として施行しました。同法では運送人の責任限度額をヘーグルールに準じて10万円としています。
ヘーグヴィスビールール
運送人荷主の責任を合理的に配分して、両者の利益を公平に保護しようとしたヘーグルールは70カ国以上が批准。世界的な共通ルールになったわけですが、年月の経過とともに批准した国々の裁判における同ルールの適用、解釈の違い、インフレた平価切下げによる経済情勢の変化、コンテナ輸送の発展による輸送方法の変化などにより、統一条約としては機能にほころびがでてきました。
そこで、実情にそぐわなくなってきた部分を改正、補正しようという動きが活発になってきて、とくに運送人の責任限度額については1梱包または単位あたりで100スターリングポンド(国際海上物品運送法では10万円)は妥当でなくなり、新しい額を決めるべきであるという荷主の要望が大きくなりました。
また、技術革新によってコンテナ輸送という新しい輸送手段が導入されると、コンテナを1梱包とみなすか?という点でも船会社と荷主との間で意見が分かれてしまい、明確にする必要が出てきました。
このように再び、運送人と荷主の間で意見が分かれてきたため、1968年にヘーグルールは
「1924年8月25日ブラッセルで署名された船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約を改正する議定書」(Protocol to Amend the International Convention for the Unification of Certain Rules Relating to Bills of Lading , Signed at Brussels on 25 August 1924)
通称ヘーグスヴィスルール(Hague-Visby Rules)が採択されました。
この条約ではヘーグルールの基礎となっている運送人と荷主の責任に対する考え方には触れずに、船社と荷主の対立点を解決しようとしました。
a.運送人の責任限度額を1梱包・単位あたり10,000ポアンカレ-・フランあるいは総重量の1キログラム当たり30ポアンカレー・フランのいずれか高い方を改正されました。通貨ではその変動により実質価格が下がってしまうため、1979年の議定書で責任限度額の表示単位は国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(Special drawing right SDR)に改められることが採択されて、運送人の責任による損害倍書の責任限度は1梱包・単位当たり666.7SDRまたは総重量の1キログラム当たり2SDRのいずれか高い額を規定されています。
b.貨物の損害賠償額の算定基準を明確化し、貨物の引き渡し地における到着地価格を基準とすることになりました。
c.新たにコンテナ条項が新設され、コンテナ内に詰め込まれている梱包または単位の数がB/Lに記載されていれば、その個数が1梱包、1単位としての責任限度額になることが規定されました。つまり、ヘーグヴィスルールではコンテナを1梱包と解釈しないのです。
その中に詰められているそれぞれの荷物を1梱包とみなすことになりました。ただし、B/Lにそのような記載がない場合はコンテナが1梱包・単位とみなされます。
d.運送人が故意に損害を発生させた、あるいは損害が発生することを知りつつ、行う行為があった場合は、運送人は責任制限を主張できないことになりました。
日本は1992年にヘーグヴィスビールール(79年議定書)を批准して、これに基づいて、「国際海上物品法の一部を改正する法律」を成立させて、国際海上運送法を改正。93年6月から施行しています。同時にヘーグルールを破棄しています。